カンナビジオールはさまざまな可能性を有するとても魅力的な化合物です。このコラムでは、カンナビジオールの特徴、取り巻く環境、安全性、有用性などについて、科学的な視点から解説し、この化合物に対する理解を深めていただきたいと考えています。また、規制当局の動向や世界保健機関の「カンナビジオール批判的審査報告書」など、さまざまな情報をおりまぜてご紹介いたします。
はじめに
カンナビジオール(CBD)は、大麻草に含まれる化学物質であり、「カンナビノイド」と総称される化合物群の1つです。昨今は、さまざまな疾患に対して有効性が示唆されており、欧米では医薬品の主成分として実際の医療現場で活用されています。それ以外にも、欧米を中心に CBD成分を含むさまざまな製品群が販売されており、市場規模が急速に拡大しています。日本国内においても、大麻草から抽出されたとされるCBD成分を含む製品が、海外から輸入され、主に食品や化粧品として販売されている状況となっています。なお、CBDは、マリファナを摂取した時のような精神作用を示さず、マリファナの主成分とは異なる化合物です。
今回のコラムでは、まずCBDの基礎知識としてその安全性と有用性を解説し、次にCBDに対する当社の考え方と取組みについて紹介します。
第2回と第3回では、CBDの現状を取り巻く環境とその変化について紹介します。第4回以降、2018年に公表された世界保健機関(WHO)のCBD批判的審査報告書の内容を中心に紹介し、CBDに対する理解を深めていただきたいと考えています。ところどころに最新のトピックスも交え、タイムリーで信頼性の高い情報を提供いたします。最後まで興味を持ってお付き合いください。
大麻草とカンナビノイド
大麻草は、バラ類、バラ目、アサ科1年草の薬用植物アサのことであり、特に葉と花にはカンナビノイド類やテルペン類など、薬理作用のある成分が数多く含まれています。カンナビノドは約120種類が含まれているといわれ、その中でよく知られているのがマリファナの主成分で精神作用のあるテトラヒドロカンナビノール(THC)と精神作用のない生理活性物質CBDです。これらのように、大麻草に含まれている生理活性カンナビノイドは、植物性カンナビノイド(フィトカンナビノイド:phytocannabinoid)と呼ばれています。それ以外には、化学合成でつくられた合成カンナビノイドと人体にもともと備わっている内因性カンナビノイドが知られています。
THCとCBDの違い
THCとCBDは、分子式がいずれもC21H30O2と同一であり、構造式(図)などの物理化学的性質や薬物動態も類似しています(例えば、脂溶性が高く、生物学的利用率が低い)。しかし、両化合物の薬理作用(生理活性)は大きく異なります。
図 CBDとTHCの化学構造式
THCは有害事象を引き起こす主要なカンナビノイドです。脳内のカンナビノイド受容体に部分的作動薬として結合し、神経回路を抑制することにより、幻覚、陶酔、多幸感などの「有害な精神作用を発現」するとされています。それに対し、CBDのカンナビノイド受容体への結合は極めて弱く、THCとは逆の作用を示すため「THCのような中枢神経症状がない」とされています注)。
また、CBDは多くの試験より、良好な安全性と忍容性が認められ、さまざまな効能効果を有することから、有用性の高いことが知られています。例えば、CBD批判的審査報告書には、動物モデル及びヒトにおいて乱用や依存、耐性を示唆する作用を示さず、てんかん、低酸素虚血、鎮痛、炎症、喘息などに対して有用な治療法になり得ると記載されています。現在、CBD医薬品のエピディオレックスは、欧米では小児の難治性てんかんの治療薬として臨床使用されています。さらに、リラックスやストレス解消、睡眠導入、腸の働きの補助、疲労回復、肌トラブルなどの効果を期待して健康食品やサプリメント、化粧品などの製品が次々に開発されています。
注)化学構造が類似しているにもかかわらず、異なる生理活性を示す一因として、両化合物の立体構造の相違が考えられるのではないでしょうか。THCは3環性で立体的にほぼ固定されていますが、CBDは2環性のために分子の自由度が比較的に高いと推測されます。この相違が受容体への結合様式の差となってあらわれるのかもしれません。
当社の考え方
医薬品企業である当社は、CBDの有用性を高く評価しており、特に、健康食品素材としての価値に着目しております。今後、WHOや国内規制当局の動向、各種CBD原料及びその製剤化方法などの正しい情報をホームページ等で紹介し、正しい理解を広めたいと考えています。また、CBDの製品化を目指す皆様に対し、マーケッティングや市場的視点も含めて情報提供できるような体制を構築しているところです。
これまでの取組み
当社が準備段階として取り組んできたことは、以下の通りです(現在も取組み中の項目を含みます)。
- CBDの国内市場の調査
まず、日本市場におけるCBDの可能性について現状評価を実施し、リラックス、不眠及び慢性疼痛に対するニーズに着目しました。ターゲット層や市場規模などを推測し、CBDの価値を認識しました。
- 規制当局の動向の把握
WHOが科学的根拠に基づいたプロセスでCBDを評価し、その安全性と有用性が明らかとなりました。その根拠となった文書がCBD批判的審査報告書であり、その内容を精査しました。また、大麻取締法改正に向けた流れを追跡しました。
- CBD原料の調査
代表的なCBD原料(ホップ由来、大麻由来、合成、ナノ化、酵母由来)について、文献、特許、ホームページなどを調査しました。また、数社のCBD原料供給企業と面談し、サンプルや情報を入手し、各原料の特徴を比較しました。
- CBD製剤特性の調査
各種CBD製剤の特性について、特に物性や薬物動態に着目して調査しました。ヒトで約6%と推測されている生物学的利用率の改善方法についても文献調査しました。
- CBDからTHCへの変換に関する調査
CBDは、酸性条件下、試験管内でTHCへ変換され得ることが知られています。この反応が生体内で生じる証拠はないと考えられていますが、追加情報を収集し、いろいろな条件下での変換の可能性について調査を継続しています。
- CBDとTHCの分析に関する調査
CBDもTHCもLC-UV、LC-MSやGC-MSなどの分析法によって検出が可能ですが、THCは日本国内では標準品が入手できないため、定量分析が不可能です。そのため、CBD製品中の残留THC濃度の高感度分析が可能な海外の受託機関を調査しています。
今後の取組み
ご存じのように、2022年の「大麻規制検討小委員会」における議論により、CBDが医薬品として製造・施用できるように現行の大麻取締法が改正される見通しとなりました。また、大麻由来製品に含まれるTHCの残留限度値を設定、明確化していく方向性が示されました。この改正に伴い、CBD製品のビジネスフェーズが一挙に変わる可能性があります。当社は、CBDの各種情報を収集・整理し、正確にタイムリーにお伝えすることが社会貢献につながり、また、皆様のお役に立つことができるものと確信しております。
関連情報に「世界保健機関・依存性薬物専門家委員会(WHO/ECDD)のCBD批判的審査報告書」のURLを添付しております。
尚、対訳をご希望の方はsoudan@tamura-p.co.jpより申しつけ下さい。