田村薬品工業株式会社

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2023.06.26

【第3回】CBD製品の取り巻く環境の変化-大麻取締法改正の見通しを中心に-

CBD

カンナビジオールはさまざまな可能性を有するとても魅力的な化合物です。このコラムでは、カンナビジオールの特徴、取り巻く環境、安全性、有用性などについて、科学的な視点から解説し、この化合物に対する理解を深めていただきたいと考えています。また、規制当局の動向や世界保健機関の「カンナビジオール批判的審査報告書」など、さまざまな情報をおりまぜてご紹介いたします。

 

はじめに

日本では1948年に大麻取締法が制定され、第1条で成熟した茎及び種子を除く花穂と葉等を規制対象(使用禁止)としています。また、第4条では、大麻から製造された医薬品の施用又は受使用を禁止しています。しかし、厚生労働省は、2022年5月より4回にわたる大麻規制検討小委員会を重ね、これらの2つの条項を含め、大麻取締法改正の方向性を示しました。そのポイントを紹介します。

【図:大麻草の部位別規制】

 

大麻から製造された医薬品の解禁

2020年の世界保健機関(WHO)の勧告により、麻薬単一条約注1)上の大麻及び大麻樹脂に係る附表が改正され、大麻の医療上の有用性を認める変更がなされました。それに伴い、当小委員会でも、近年の諸外国の動向やその医療ニーズに対応する観点から、大麻から製造された医薬品の有用性と安全性が確認され、薬機法に基づく承認を得た医薬品については、その輸入、製造及び施用を可能とする方向性が確認されました。その際の製造・製剤、流通、施用に関しては、他の麻薬成分の医薬品と同様に、現行の麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)に規定される免許制度等の流通管理の仕組みが導人されるものと考えられます。近い将来、大麻草から抽出した成分を含む医薬品の国内使用が可能になる見通しとなりました。中でも、大麻由来の純粋なCBDを主成分とするエピディオレックス(欧米では承認済み)は、国内で治験中であり、法改正で医薬品として臨床使用が可能となれば、難治性てんかんであるレノックス・ガストー症候群及びドラベ症候群の治療に大きく貢献することになると予想されます。

注1)麻薬単一条約(麻薬に関する単一条約):1961年に締結された麻薬に関する普遍的に受け入れられる国際条約。条約の附表(スケジュール)に掲げる薬物等に対する統制を行っている。今回の改正では大麻がスケジュールⅣ「特に危険で医療用途がない物質」から除外された。スケジュールⅠ「乱用のおそれがあり、悪影響を及ぼす物質」は継続。

 

大麻の部位規制から成分規制へ

現行の大麻取締法第1条における部位規制の背景には、制定当時は大麻の有害作用の成分が判明していなかったこと、また繊維などの製品としての麻の流通を規制の対象から除外したかったことがあります。しかし1960年代に入り、大麻草に含まれる成分としてTHCやCBD などの成分が同定され、大麻の有害作用は主にTHCが原因であることが明らかになりました。そこで厚生労働省は、「規制すべきはTHCをはじめとする有害な作用をもたらす成分であることから、従来の大麻草の部位による規制に代わり、成分に着目した規制を導人し、これを規制体系の基本とする方向で検討を進めるべきである」とし、以下の方向性を示しました。

  • 麻向法の枠組みを活用することを念頭に、他の麻薬成分と同様、医療上必要な医薬品としての規制を明確にするとともに、麻薬として施用等を禁止する成分を法令で明確にしていくべきである。
  • 大麻由来製品に含まれるTHCの残留限度値を明確にしていくべきである。なお、その際、当該限度値への適合性に関しては、医薬品とは異なり、食品やサプリメント等であることを踏まえ、製造販売等を行う事業者の責任の下で担保することを基本として、必要な試験方法も統一的に示すべきである。
  • 残留するTHCの特性上、「野放し」となることがないよう、買い上げ調査等を含め、行政による監視指導を行うべきである。なお、THC残留限度値を超える製品は「麻薬」となるため、所持、使用、譲渡等が禁止されることとなる。

以上の方向性以外にも、国内の大麻草栽培において、現行法は「繊維若しくは種子を採取する目的」とする栽培のみ、都道府県知事による免許制で認めていますが、CBD製品に係る原材料の生産を含めた新たな産業利用を念頭においた用途・目的や「医薬品原料の用途に向けた栽培目的」を追加していくべきとの見解が示されています。

 

CBD市場の現状と課題

日本では、主に大麻草の規制部位以外から抽出されたとされるCBD製品が海外から輸入され、食品やサプリメント、化粧品などの形態で販売されています。一方で、国内で販売されているCBD製品からTHCが検出され、市場から回収される事例も少なからずあり、安全な製品の適正な流通・確保が課題となっています。先述しましたように、大麻取締法改正により部位規制から成分規制へ変更されれば、CBD製品におけるTHCの残留限度値が明確になると予想されます。

このとき、CBD製品中のTHC残留限度値は、栽培する大麻草中のTHC含有量とは位置付けが異なることに留意する必要があります(例えば、米国における大麻草中のTHC残留基準の0.3%は、ヒトにTHCが精神作用を及ぼす濃度よりも高い)。そのため、保健衛生上の観点から、欧州における規制(例えば、急性参照用量注2)を基準にして食品や嗜好品に定める残留基準値)を参考に、THCが精神作用を発現する量よりも一層の安全性を見込んだ上でTHC残留基準値が設定されるものと予想されます。

注2)急性参照用量(ARfD:acute reference dose):ヒトがある物質を24時間又はそれより短い時間経口摂取した場合に健康に悪影響を示さないと推定される1日当たりの摂取量。(参考)1日摂取許容量(ADI:acceptable daily intake):ヒトがある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、現在の科学的知見からみて健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量。

 

また、CBDは、酸及び熱を加えることにより、一部がTHCに変換するという知見もあり、当小委員会でもCBDそのものが麻薬原料という扱いになるのではないか、との意見が出されました。最終的な方向性としては、このように無免許で麻薬を製造する行為は麻薬製造罪に該当することから、その取締りを徹底するなどの必要な対応を検討していくことになると考えられます。一方、CBDは試験管内人工胃液中でTHCに変換されることから、経口摂取後の生体内でもTHCへ変換する可能性が示唆されています。しかし、WHOのCBD批判的審査報告書でその証拠の存在が否定されているように、当小委員会においても生体内で胃液や肝代謝によるTHCへの変換はなく、CBD製品の摂取後にTHC由来物質が検出されるのは製品に混入したTHC由来と考えられています。

さらに、THC、CBDを含むカンナビノイド成分については、その作用や安全性において未知の部分もあることから、これらの成分の適正な使用(長期の安全性や作用量など)や乱用防止に資するさらなる調査・研究を深めていくべきであるとされています。

 

おわりに

今、日本ではCBD製品の市場拡大への環境が整いつつあるといえるでしょう。国内で販売されているCBD製品は輸入品が中心ですが、今後は国内生産・製造が増えていくものと予測されます。これによりCBDに対する認知率が上昇するとともに、正しくない情報を目にする機会も増え、CBD製品の適正使用に悪影響を及ぼす可能性もあります。本年中ともいわれる大麻規制法改正に向けて、当社はCBDに関する最新で信頼性の高い情報を収集し、タイムリーに発信していきたいと考えています。