今回のコラムでは、カンナビジオール(CBD)の薬物動態について解説します。
基本的な内容は、世界保健機関(WHO)のCBD批判的審査報告書より引用し、それに関連する追加情報も紹介いたします。
CBDの薬物動態の概要
CBD批判的審査報告書[1]に記載されている薬物動態情報を要約すると以下の通りです。
- CBDは一般的に、カプセル剤又はオイル溶液として経口投与されるが、舌下又は鼻腔内投与も可能である。
- CBDの水への溶解度が低いため、消化管からの吸収は不安定であり、薬物動態プロファイルは変動が大きいと考えられる。
- 経口投与後の生物学的利用率注1)は、吸収の不安定性に加え、著しい代謝による初回通過効果のために6%と推定されている。
- トラベ症候群の小児患者に5~20 mg/kg/日を経口投与後において、CBD及びその代謝物の血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)は、投与量に比例して増加する。
- エアロゾルとして肺吸収されたCBDは、投与後5~10分で速やかに最高血漿中濃度(Cmax)に達し、生物学的利用率は経口投与よりも高い。
- CBDは肝臓で広範に代謝され、主代謝経路は7-OH-CBDへの水酸化である。その後、さらに代謝され、カルボン酸体7-COOH-CBDなどの多くの代謝物として糞及び尿中に排泄される。
- 代謝に関与する主要な酵素は、CYP3A4とCYP2C19である。
- CBDは、in vitroでCYP阻害を示すが、臨床用量(in vivo)で阻害が生じるかどうかは明らかではない。ただし、クロバザムとの併用時の副作用症例において、活性代謝物N-デスメチルクロバザムの代謝酵素CYP2C19に対する阻害が示唆されている。
注1)生物学的利用率:人体に投与された薬物のうち、どれだけの量が全身に循環するのかを示す指標。 バイオアベイラビリティともいわれる。薬物が静脈内に直接投与される場合、100%になる。
経口投与後の薬物動態
- 吸収(血漿中濃度)[2]
最近の別の報告において、テトラヒドロカンナビノール(THC)を4.3%含むCBDオイル溶液を健康成人に1日1回7日間反復経口投与後における薬物動態が検討されました。その結果、CBDとして120~480 mgを投与後の血漿中CBD濃度は7日目までに定常状態に達し、7日目の投与後4~6時間に9.6~36.3 ng/mLのCmaxに到達し、AUCは62.2~263.3 ng・h/mLとなりました。これらの曝露量には良好な投与量比例性が認められました。一方、THCはほとんどの時点で定量限界未満であり、CBDからTHCへの有意な生体内変換は示唆されませんでした。
- 吸収に及ぼす食事の影響[3]
CBDは食後に経口摂取すると、血漿中濃度が大きく上昇することが知られています。例えば、純粋なCBD医薬品のエピディオレックスでは、絶食時と比較して高脂肪高カロリー食後でCmaxが5倍、AUCが4倍、低脂肪低カロリー食後でそれぞれ4倍、3倍、牛乳飲用後で3倍、2.5倍、アルコール飲用後で1.93倍、1.63倍上昇すると報告されています。
- 吸収機構(推定)[4]
CBDは脂溶性が高く、水にほぼ不溶のため、ビタミンEや脂肪酸などの脂溶性栄養素と同様の経路で吸収されると推定されます。まず十二指腸で胆汁酸塩によって乳化され、胆汁成分や脂溶性栄養素で形成されたミセルに取り込まれます。ミセルは極性部分を外側に配向して水に分散可能なため、非攪拌水層(「第5回カンナビジオールの化学」注2参照)を通過して腸粘膜に到達し、CBDが吸収されます。吸収されたCBDの大部分は、門脈から肝臓を経由して全身循環に移行しますが、一部はキロミクロンというリポタンパク質微粒子に取り込まれ、リンパ管から肝臓を経由せずに全身循環する可能性があります。
- 代謝[3, 5]
CBDは、CYP2C19、CYP3A4、UGT1A7、UGT1A9及びUGT2B7によって肝臓及び小腸(主に肝臓)で代謝されます。血漿中の主代謝物は7-COOH-CBDであり、エピディオレックスを反復経口投与後のAUCは親化合物CBD(未変化体)の約40倍になります。この代謝物の前駆体である7-OH-CBDはCBDと類似の薬理活性を示しますが、反復投与後のAUCは未変化体よりも38%低くなります。CBDから7-OH-CBDへの代謝にはCYP2C19、7-OH-CBDから7-COOH-CBDへの代謝にはCYP3A4が主に関与しています。UGTアイソフォームにより生成したグルクロン酸抱合体は主に尿・糞中で検出されます。
- 排泄[5]
エピディオレックスを経口投与後72時間までの尿中には未変化体と代謝物として投与量の約16%が排泄され、それ以外のほとんどは未変化体として糞中に排泄されました。したがって、経口投与されたCBDは、消化管から吸収されずにそのまま糞中に排泄される割合が大きいものと推測されます。
喫煙投与及び静脈内投与後の薬物動態[6]
大麻喫煙経験者に重水素で標識したCBDを喫煙投与あるいは静脈内投与後の薬物動態パラメータを紹介します。喫煙投与後における生物学的利用率は31%と経口投与後よりも高く、肝代謝による初回通過効果が回避されていることが示唆されました。血漿中消失半減期は、喫煙投与後が31時間、静脈内投与後が24時間と大きな差はありません。静脈内投与後の分布容積注2)は32.7L/kgと極めて大きく、脂溶性(分配係数)の高いCBDは血漿中から臓器・組織、特に脂肪組織への移行性が高いと考えられます。
注2)分布容積:「ある薬物が血中濃度と等しい濃度で生体内に均一に分布している」と仮定した場合の見かけの体液量(容積)をいう。関係式は「分布容積×血中濃度=総薬物量」。分布容積が大きいことは組織移行量が高いことを示す。例えば、体重60kgのヒトの細胞外液(間質液+血液)は12Lであるが、ここだけに薬物が留まる場合、分布容積は、12L/60kg=0.2L/kgとなる。
投与方法・経路別の薬物動態と効果の特徴[7, 8]
CBDにはさまざまな投与方法と投与経路があります。それぞれで薬物動態が異なる場合が多く、それに伴って効果発現時間、用量、体内での分布、効果持続時間などで差異が生じます。いくつかの投与方法・経路についてその特徴を簡単に紹介します。
- 吸入投与(喫煙、気化・蒸気吸入)
肺で吸収されたCBDは、肝臓で代謝される前に脳に送られます。このため、脳が標的部位となる効果の場合には吸入が最も効率の良い投与方法になります。効果発現時間と持続時間が短いので、急性の症状(例えば、吐き気や急性疼痛)の緩和に適しています。問題点は、重篤な疾患に関連付けられていませんが、肺への有害作用です。
- 経口投与
経口摂取されたCBDは、小腸で吸収され、肝臓を通過した後で標的部位に分布するため、効果発現時間は吸入より遅くなりますが、効果持続時間が長いことから、慢性症状の緩和に向いています。また、吸収時に小腸の受容体などにも作用しますので、炎症性腸炎のような疾患にも効果を発揮する可能性があります。
- 舌下及び口腔粘膜投与
舌下及び口腔粘膜用製剤中のCBDの一部は、舌下及び口内の血管から直接吸収されます。通常は、投与後最低1分間経過してから飲み込むようにします。投与後15~30分で口腔内から吸収されたCBDの効果があらわれ、1~2時間で消化管吸収分の効果が追加されて最大となります。投与後にすぐに飲み込むと感じられる効果が少なくなります。
- 局所投与
局所剤(塗り薬など)のCBDは、皮膚や関節、筋肉の疾患に効果がありますが、血液中にはほとんど移行しません。このため、医薬品以外の用途として化粧品が挙げられます。
- 経皮投与
経皮吸収型製剤(経皮パッチなど)は、局所剤とは異なり、一定速度で血液中にCBDを放出するようにできています。効果発現時間や持続時間は舌下投与と類似しますが、経皮製剤の作り方によっては効果をより長時間持続させることが可能です。
これら以外にも、研究例は少ないですが、経鼻投与や座薬があります。経鼻スプレーの場合、特徴は吸入に類似し、速やかな効果発現が期待されます。吸入のような肺への害が少なく、目立たずにどこでも摂取可能な点がメリットです。座薬は、体の内側から塗る局所剤という位置付けになります。今後の研究に期待しましょう。
経口投与後の生物学的利用率の改善-CBDの水溶化製剤-
経口投与後のCBDの薬物動態を決定する重要な要因として2つ考えられます。まず、水に溶けないために消化管からの吸収率が低いこと、もう一つは、吸収されても肝臓で広範に代謝され、初回通過効果が大きいことです。これらの結果、生物学的利用率が低下し、効果があらわれない、持続しないなどの有用性を損なう結果となります。
肝臓の通過制御や通過中の代謝制御は技術的に困難であるため、薬物動態を改善するためには、水溶性を上げて安定な吸収過程を作ることが重要です。現状では、ナノ化したCBDをオイルに溶解し、その粒子を界面活性剤で包み込んで乳化させる方法(ナノエマルジョン化)[9]、水に容易に溶けて生体内で吸収・代謝される「分子のカゴ」様化合物にCBDの分子一つひとつを閉じ込める方法(包接化)[10]などが考えられています。一方、動物実験が終了した研究段階ですが、CBDに食事性脂肪分子を可逆的に結合させたプロドラッグを作成し、肝臓を通過しないリンパ管吸収の寄与率を上昇させる方法(プロドラッグ化)[11]も報告されています。