田村薬品工業株式会社

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2023.10.30

【第7回】カンナビジオールの薬理

CBD

今回のコラムでは、カンナビジオール(CBD)の薬理について解説します。

世界保健機関(WHO)のCBD批判的審査報告書[1]によると、問題となる精神作用を有するテトラヒドロカンナビノール(THC)が作用する主な受容体はカンナビノイド受容体ですが、CBDは本受容体に対し、THCとは異なる作用機序を示します。また、カンナビノイド受容体に依存しない情報伝達系を調節することも示唆されています。これらの内容について、最近の情報を含めて少し詳しく紹介します。

 

カンナビノイド受容体[2]

THCが結合するカンナビノイド受容体は、Gタンパク質共役受容体(GPCR)注1)であり、生体内にCB1受容体とCB2受容体が存在します。CB1受容体は、主に中枢神経系に存在し、それ以外にもさまざまな臓器や細胞でみられます。これが活性化されると、食欲の増進、痛みの軽減、筋肉けいれんの緩和などの中枢性の効果があり、その延長として、いわゆるマリファナを吸引して「ハイ」になる精神作用をもたらします。一方、CB2受容体は、主に免疫機能細胞や消化管細胞の表面に存在し、中枢神経系では低密度です。そのため、本受容体の活性化は免疫と炎症反応に関連し、精神作用を誘起しません。

注1)Gタンパク質共役受容体(GPCR):細胞膜上で神経伝達物質やホルモンを認識する生体センサーである。7回膜貫通部位を持ち、タンパク質の中で最大のスーパーファミリーを形成している。

 

内因性カンナビノイド[2]

モルヒネなどの受容体の発見により、エンドルフィンという脳内麻薬が発見されましたが、カンナビノイド受容体についても同じように、THCと類似の活性を有する内因性カンナビノイドのアナンダミドと2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)が発見されました。その後の研究において2-AGは、生体内濃度がアナンダミドよりも数百倍高いことや、CB1受容体とCB2受容体の両方のリガンド注2)(アナンダミドはCB1受容体のみのリガンド)であることから、真の内因性カンナビノイド(脳内マリファナ)と考えられるようになりました。2-AGは、細胞内カルシウム濃度の上昇などによりシナプス後ニューロンで産生されて細胞外に放出され、シナプス前終末にあるCB1受容体を活性化し、神経伝達物質の放出を抑制します(逆行性シナプス伝達注3))。その結果、記憶・学習、不安、抑うつ、薬物依存、食欲、疼痛といったさまざまな脳機能に作用します。役目を終えた2-AGは分解酵素によって処理されます。

注2)リガンド:一般的に、機能タンパク質に特異的に結合する物質と定義されるが、ここでは細胞膜表面に存在する受容体膜タンパク質に対して特異的に結合する細胞外分子を指す。
注3)逆行性シナプス伝達:脳のシナプス伝達の大半は、シナプス前終末から放出される神経伝達物質を介し、シナプス前部から後部へ「順行性」に情報が伝達される。その逆方向の伝達様式をいう。

 

内因性カンナビノイドシステム[2, 3]

生体内では、CB1受容体、CB2受容体及び内因性カンナビノイドを主要構成分子として、内因性カンナビノイドシステム(Endogenous Cannabinoids System、以下、ECS)が構成されており、生物の恒常性維持に寄与しています。これらの分子以外にも、内因性カンナビノイドの産生酵素と分解酵素、第三のカンナビノイド受容体と呼ばれているGPR55注4)、温度感受性受容体TRFチャネル注5)、内因性カンナビノイド輸送体注6)、輸送体-カンナビノイド複合体が結合する核内受容体PPARγ注7)もECSに含まれます。ECSは、細胞の情報伝達の調節に深くかかわっており、特に、免疫系の強化、正規の睡眠サイクル、正常な食欲や代謝、ストレスの軽減、健康な身体調節を確立するために存在すると考えられています。

注4)GPR55:炎症性及び神経性の疼痛や消化管機能の調整などに関与するGPCRである。2-APやアナンダミドには反応せず、リゾホスファチジルイノシトールが内因性リガンドである。
注5)TRFチャネル:温度感覚、痛覚、味覚などの感覚受容に関わる膜貫通チャネル型受容体であり、細胞内外の環境変化のセンサーとして働く。サブタイプとしてバニロイド受容体(TRFV1)がある。
注6)内因性カンナビノイド輸送体:内因性カンナビノイドを必要な場所に輸送する脂肪酸結合タンパク質である。脂溶性の高いカンナビノイドと結合し、親水環境の細胞内を移動する。
注7)PPARγ:脂溶性のシグナル伝達分子と結合し、核内でDNAの転写の活性化又は抑制を起こす受容体である。遺伝子発現、脂質代謝、抗糖尿・抗動脈硬化・抗腫瘍・抗炎症作用に関与する。

 

ECSの機能低下に伴う疾患[2, 3]

癌、糖尿病、アルツハイマー病、慢性疼痛、睡眠障害、依存症をはじめ、多くの人間の疾患には、ECSの失調が関与することがわかっています。2004年に臨床的内因性カンナビノイド欠乏症という概念が提案され、偏頭痛、線維筋痛症、過敏性腸症候群の原因とされました。その後の研究でも本欠乏症が、炎症性疾患、自己免疫疾患、うつ病、心的外傷後ストレス障害(PSTD)、骨量の減少、加齢関連疾患の根本的な原因である可能性が示唆されています。2013年に米国国立衛生研究所(NIH)は、「ECSの働きを調整することにより、人間に起きる疾患のほとんどすべてに治療効果を発揮する可能性がある」と宣言しています。

 

植物性カンナビノイドの作用[1-4]

大麻草に含まれている植物性カンナビノイドが生体内に入ると、ECSに対してあるものはもともとあった内因性カンナビノイドと類似の作用を示し、別のものは異なる作用を示します。今回、主要な植物性カンナビノイドであるTHCとCBDについて、4つの参考資料[1-4]に示されているECSに対する作用機序を要約して紹介します。

THCのカンナビノイド受容体への作用

    • THCは、CB1受容体とCB2受容体のどちらにも部分アゴニスト注8)として結合し、両受容体を活性化する。
    • THCは、第三のカンナビノイド受容体GPR55も活性化する。

CBDのCB1受容体への作用

    • CBDは、CB1受容体では直接的なアゴニスト作用を示さない。そのため、マウスにおいてCBDは、CB1受容体の活性化に関連する行動特性を示さない(THCは、CB1受容体の活性化に起因する全ての作用を生じさせる)。
    • CBDは、THCの作用の一部を低下又は拮抗する可能性が示されている。この機序は不明であるが、CBDが弱いCB1受容体アンタゴニストである可能性を示唆する研究もある。また、CBDは、CB1受容体の負のアロステリックモジュレーター注9)であり、THCのCB1受容体アゴニスト作用の非競合的アンタゴニストとして作用する可能性が示唆されている。
    • ヒト及び動物を用いた神経画像研究では、CBDはTHCとは概ね逆の作用を示す。

CBDのCB2受容体への作用

    • CBDは、CB2受容体に対しても低親和性である。
    • 近年の研究でCBDは、CB2受容体においてもアロステリックモジュレーターとして作用する可能性が示唆されている。
    • CBDは、CB2受容体による信号伝達を増強させる。この作用機序も不明であるが、CBDは、CB1受容体の作用を弱めると同時に、CB2受容体の作用を強めることが可能であると考えられる。

CBDのカンナビノイド受容体へのその他の作用

    • CBDは、内因性カンナビノイドのアナンダミドと2-AGの働きを亢進することを介してECSと相互作用する。これは、内因性カンナビノイドの再取り込みの遮断と分解酵素の阻害であり、神経細胞周辺の内因性カンナビノイドの濃度を高めることにより、間接的にカンナビノイド受容体を活性化することが可能である。
    • CBDは、GPR55に対してアンタゴニスト作用を示す。

CBDの他の受容体への作用

    • CBDは、ECSに依存しない情報伝達系を調節することが示されている。例えば、アデノシンの取り込み阻害により、アデノシン受容体注10)を間接的に活性化する。また、セロトニン(5-HT1a)受容体注11)、グリシン受容体注12)、バニロイド受容体(TRFV1)注13)及び核内受容体PPARγも活性化する。
    • どの調節機構がどのような効果に関与しているかについては不明な点が少なくないが、CBDのてんかんに対する効果は、GPR55のアンタゴニスト作用、TRPV1のアゴニスト作用及びアデノシンの取り込み阻害に起因すると推測されている。
注8)アゴニスト:生体内の受容体に対して可逆的な相互作用を起こし、受容体を活性化することにより特定の生理作用を発揮する化合物をいう。内因性物質の場合はリガンドと呼んで区別する。内因性リガンドよりも受容体の活性化度の低い化合物を部分アゴニストという。対義語はアンタゴニスト。
注9)アロステリックモジュレーター:内因性リガンドが結合する受容体部位とは異なる部位に結合し、受容体の活性を変化させる低分子化合物をいう。正と負はそれぞれ活性化と抑制を示す。
注10)アデノシン受容体:アデノシンに対するGPCR受容体で、4種類のサブタイプが存在する。CBDと関連するA2Aサブタイプは、神経活動の制御や血管拡張、平滑筋の弛緩など多岐にわたる働きを持つ。
注11)5-HT1a受容体:14個のサブタイプが存在するセロトニン受容体の中のひとつ。主に中枢神経系に存在して神経伝達物質を調整する。血管平滑筋にも存在し、血管の収縮と拡張を調整している。
注12)グリシン受容体:中枢神経系に広く存在し、抑制性の神経伝達を担っている。グリシン、β-アラニン、タウリンなどによって活性化され、アンタゴニストとしてはカフェインが知られている。
注13)TRFV1:感覚神経に発現し、カプサイシン、高体温、PGE2、ブラジキニン、アナンダミドなどにより活性化される。痛みの受容に関与することから,鎮痛薬の標的分子として注目されている。

 

以上の内容をまとめると、CBDは、カンナビノイド受容体に対する親和性は低いものの、CB1受容体を部分的に抑制し、CB2受容体を部分的に活性化することにより、調整バランスの乱れたECSの機能を修復する方向に作用するのではないかと推測されます。また、内因性カンナビノイドの活性化を介した間接的なECSとの相互作用や、さまざまな他の受容体との応答も、心身の機能改善に関与している可能性があります。

 

これらの推定作用機序の結果としてあらわれるCBDの薬理作用は、他の植物性カンナビノイドとは比較にならないほど多岐にわたります。例えば、参考資料[2]には、調査された20項目の薬理作用のうち17項目にも及び、他のカンナビノイドは最大でも4項目にすぎないと記載されています(詳細は次回のコラムで紹介します)。しかしながら、正確な作用機序が不明なものが多く、CBDをはじめとするカンナビノイドの科学は、まだまだ未開拓な部分が残されているように思われます。2022年に開催された大麻規制検討小委員会でも、カンナビノイド成分については、その作用や安全性において未知の部分もあることから、調査・研究を深めていくべきであると提言されています。