痛みと人間
痛みは人間の最大のストレスであり古来より人々を悩ませてきました。
数千年前からケシの有効性を知り、また、医学の父とされる古代ギリシャのヒポクラテスは、ヤナギの皮や枝から鎮痛薬(ちんつうやく)をつくったと伝えられています。
やがて、ミュンヘン大学薬学部教授ヨハン・ブフナーが、はじめてヤナギの樹皮から、有効成分を抽出することに成功します。
この有効成分を精製し、苦味のある黄色の結晶をサリシン(現代のサリチル酸:Salicylic acid)と名付けました。
サリチル酸は、胃腸障害などの強い副作用が現れました。
そこでサリチル酸の副作用を抑(おさ)える研究がおこなわれ、その結果、化学的に変化を加えて化学合成されたくすりが、鎮痛薬としてよく知られるアセチルサリチル酸(アスピリン)です。 近代のくすりの開発には、このように副作用を減らし、効果や持続時間を高めていくような化学的な研究が寄与(きよ)しており、くすりの開発は近代化学の発展に大きな貢献を果たしてきたといえます。
解熱鎮痛薬の作用機序の違い
*NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs)
ステロイドやNSAIDsは炎症部位において抗炎症作用を発揮することで炎症に伴う発熱や痛みに効果を発揮します。
一方、アセトアミノフェンは体温中枢に直接働いて解熱効果を発揮するため、副作用も、それらに基づく使用制限も大きく異なります。
NSAIDsは、夫々の効力の差に加え、安全性及び効果持続の差を目的として多くの化合物が開発されました。
1971年にジョン・ベーンが、ある薬物がシクロオキシゲナーゼ(プロスタグランジンを合成する酵素)の一種であるPGHS-1(コックス1:COX-1)を阻害することにより、プロスタグランジン(PG:痛みを誘発する物質)を減少させることを明らかにしました。
その20年後、PGHS-1と同様のプロスタグランジン合成に関与する2番目のシクロオキシゲナーゼが発見されました。(PGHS-2:後にコックス2:COX-2と名付けられた)。
NSAIDsは、痛みの物質であるプロスタグランジンG2(PGG-2)の生成に関与するCOX-1、COX-2共に阻害することで、抗炎症作用を発揮し、疼痛緩和や解熱効果を発揮するといわれています。
但し、COX-1の阻害は胃粘膜保護作用を有するプロスタグランジンE2(PGE-2)の産生も同時に抑制するため、副作用として胃潰瘍がしばしば問題になりました。
2007年、選択的COX-2阻害薬(胃腸障害の問題となるCOX-1を阻害しない)の登場によって胃腸障害が半減できる事から期待が高まりましたが、その後、循環器系の副作用が指摘されたため、COX-1・COX-2ともに阻害するNSAIDsを超える存在にはなり得ていません。
アセトアミノフェンの歴史
アセトアミノフェンはアスピリンと並んで100年以上に渡る長い歴史を有していますが、解熱鎮痛薬として広く用いられるようになったのは1950年代からです。
同時期に使用されていましたアミノピリン等のピリン系解熱鎮痛薬や、アスピリンを始めとする多くのNSAIDsは、重篤な副作用が問題視されるようになり、アセトアミノフェンに注目が集まるようになりました。
その後、WHOのエッセンシャルドラッグ・モデルリストに非麻薬性鎮痛薬及び頭痛治療薬として採択され、世界的に鎮痛薬の第一選択薬(ファーストチョイス)として広く使用されるようになりました。
現在、米国では鎮痛に対しNSAIDsが処方されることはほとんどなく、米国リウマチ(RA)学会はガイドラインで、変形性関節症(OA)のファーストチョイスとしてアセトアミノフェンを推奨しています。
日本においてもアセトアミノフェンは解熱鎮痛薬として広く知られていますが、その鎮痛効果は十分な評価が得られているとはいえません。
その理由としては、日本でのアセトアミノフェンの用量が諸外国に比べ半分にも満たない点が挙げられます。
何故、アセトアミノフェンなのか
厚生労働省ホームページの「市販の解熱鎮痛薬の選び方」市販の解熱鎮痛薬の選び方|厚生労働省 (mhlw.go.jp)を参照すれば、アセトアミノフェン単剤とアセトアミノフェンとNSAIDsの合剤が掲載されていますが、合剤の目的はアセトアミノフェンの効果を補うためだと思います。
アセトアミノフェンとNSAIDsの作用機序は大きく異なるため、両者の副作用は大きく異なっています。
特にNSAIDsによってCOX-1を長期に阻害しますと、消化管出血などの重篤な副作用やアスピリン喘息の誘発などがあり、米国ではこれら副作用によって年間多くの方が亡くなったことからNSAIDsは殆ど使用されなくなりました。
一方、アセトアミノフェンはNSAIDsのような消化管出血の報告はありません。
NSAIDsの課題を克服する目的でCOX-2選択的阻害薬(消化管等の副作用の主要因であるCOX-1阻害しない)が開発され大きなニュースになったのですが、COX-2選択阻害薬は循環器系の重篤な副作用が報告されたため使用が控えられるようになりました。
アセトアミノフェンは1回500㎎、1日1,500㎎服用しても喘息を引き起こさないという試験成績があります。
更に、NSAIDsを妊婦が服用しますと、胎児にとって重篤な副作用があり投与は認められていませんが、アセトアミノフェンの妊婦への投与は禁じられていません。
また、授乳婦は、NSAIDs服薬中は授乳を中止しなければなりませんが、アセトアミノフェンは禁止されていない等、安全性の観点で大きな差があります。
医療用と市販のアセトアミノフェンの使用上の差について
2000年代初頭、アセトアミノフェンの成人における国際的な用法・用量は、「1回 500~1000mg を4~6時間ごとに投与し、1日最大 4000mgとする」が標準的でした。一方、日本国内においては医療用のアセトアミノフェン製剤として承認されていた成人における用法・用量は、「1回 300~500mg、1日 900~1500mg」とされており、諸外国と比較して著しく低い用量でしかなく、これは現在の市販のアセトアミノフェン製剤の用量と同等か若干高い程度にすぎませんでした。
このため、アセトアミノフェンが鎮痛剤としての有効性を示す上では不十分であることが多く、解熱剤としてのみの認識を強め、鎮痛剤としては「効かない薬」、「古くて忘れられてしまった薬」という印象が当時広まってしまっていたと考えられます。
また、アセトアミノフェンがNSAIDsの一種であり、NSAIDsと同様の副作用を発現すると誤解している医療従事者がいたことも理由の一つと考えられます。
より安全性の高い非ピリン系の解熱鎮痛薬として世界的に注目を集めていたアセトアミノフェンは、WHOのエッセンシャルドラッグ・モデルリストに採択され、鎮痛薬の第一選択薬(ファーストチョイス)として使用されるようになったにもかかわらず、わが国ではその安全性と有効性は必ずしも十分認識されているとはいえませんでした。
2005年11月に日本疼痛学会並びに日本ペインクリニック学会より、厚生労働省へ「アセトアミノフェンの鎮痛における薬物適応外使用に関する是正要望書」が提出され、国際的に標準的な用法・用量への拡大(1回1000㎎、1日総量4000㎎まで)ならびに効能追加(変形性関節症が承認)されました。(注1)
上記は医療用途での用法用量であり、市販のアセトアミノフェン製剤で認められている用法用量は1回300㎎、1日総量900㎎、小児はその半量です。
市販のアセトアミノフェンの使用に当たっては記載されている用法用量を守って服用頂かねばなりません。
医療用アセトアミノフェンの効能追加時の用量拡大及び効能追加の承認条件として、1日総量2400~4000mgで4週間以上の継続投与について安全性(肝機能への影響)が評価されました。
本試験では、703症例中、肝機能異常の副作用発現率は4.3%(30例)あり、施設基準上限の3倍を超えるATL値の上昇は1.0%(7例)でした。
このうち、添付文書の「使用上の注意」から予測できない重篤な副作用は、間質性肺疾患及び汎血球減少症の各1例であり、アセトアミノフェンの安全性について大きな問題はないと判断されました。
アセトアミノフェンの副作用について
アセトアミノフェンは医薬品です。
用法用量通りに飲んで頂いてこそ副作用をあまり気にせずご使用頂けますので必ず用法用量をお守りください。
ただ、効果や副作用には個人差があり、絶対に副作用が生じないとはいい切れないため、アセトアミノフェンに限らず医薬品を服薬中はできるだけ安静にして頂き、また観察頂き、何かあれば医師にご相談下さい。
一般社団法人日本中毒学会のサイト「その4 アセトアミノフェン | 中毒情報・資料 | 一般社団法人日本中毒学会 (jsct.jp)」では、アセトアミノフェンの過量服薬における中毒について以下のように説明されています。
大量のアセトアミノフェンの服用によって、解毒できなかった物質によって肝細胞の壊死(破壊)を引き起こして副作用を生じさせます。 成人(15歳以上)で150~250mg/kgが1回の摂取で重篤な肝毒性を引き起こす閾値(いきち:肝毒性を生じる最低用量)といわれています。
例えば、体重50kgの方がアセトアミノフェンを1回に7,500mg~12,500mg服用されますと、重篤な肝機能障害を発症する可能性があり、解毒剤の投与が勧められる境界値となります。
一方、10~12歳以下の小児では成人より肝毒性が発現しにくいといわれています。
尚、小児における安全性については、第2回小児薬物療法検討会議の資料において、「国内外の文献では、アセトアミノフェンの副作用が成人と比べて、小児で特に重篤、あるいは頻度が高いと危惧されるデータは一切無いと説明されています。
その他の文献情報を含めて総合的に判断すると、アセトアミノフェンは規定された用法・用量の範囲内(表1参照)であれば、小児に対して極めて安全性が高い薬物であると考えられる。」と記載されています。
医療用医薬品の用法用量の設定は、これらデータを元に比較的安全性が高いとされる用法用量で設定されています。
OTC医薬品は更に安全性を優先して用法用量が決定されています。
医薬品は用法用量を守ってこそ期待する効果が得られますが、守られない場合は重い副作用が生じるなど予期せぬ状態にもなりますし、時に死亡することもある事をご理解頂かねばなりません。
用法用量を守って服用いただく場合、アセトアミノフェン製剤は大変安全性の高い有用な薬剤ですので、安心して服用ください。
監修 こめだ整形外科 院長 米田 信介
ノックペインA(ツーシンA)の製剤的特徴
*ノックペインAとツーシンAは同一製品です。
ノックペインAは小児適応を有しています。
小児への適応は7歳以上15歳未満、用法用量はノックペインA1回1錠(150㎎)1日3回です。
ノックペインAは1錠あたりアセトアミノフェン150㎎含有した白色の錠剤であり、7歳から15歳未満の方でも「ごっくん」できる大きさ(直径8mm、厚さ5mm)の設計になっており、ほのかな甘みを付けています。
また、高齢者は嚥下力が弱っておられる方もおられ、大きな錠剤は見た目で避けられる傾向にあるとのデータもあります。
高齢者でも摘まみやすく、且つ、「ごっくん」できる大きさに設定しており、ノックペインAを1回2錠(150㎎)1日3回服用いただけます。
尚、市販薬の小児とは、薬剤の代謝や排せつ機能に関わる臓器が大人並みに成長する目安が15歳であり、15歳未満を小児としています。
ノックペインA(ツーシンA)の用法用量
ノックペインA錠は1錠中にアセトアミノフェンとして150㎎の製剤です。
- 成人1回300㎎(ノックペインA 2錠)
- 小児1回150㎎(ノックペインA 1錠)
- 成人、小児共に1日3回まで
- 投与間隔は4時間以上空けて下さい。
用法用量を遵守ください。
こめだ整形外科 院長 米田 信介
私のめざす医療
「本当に必要な治療は何か?」を考え、症状の原因を根本から解決する治療をめざしています。
すなわち、単なる痛み止めや湿布の処方、漠然とした筋力指導ではなく、患者様一人ひとりに合わせて、健やかな日々に繋がる身体作りをサポートします。
そのために、当院に隣接するDr. KOMEDA Relaxation & Fitnessと連携(医師とトレーナーの連携)して、診察室の診療のみでは捉え難い、カラダの不調の原因となる動きを分析し、より患者様に応じた細やかな指導に取組んでいます。
皆様の生活に密着し、踏み込んだ具体的な指導に取組むことで、リハビリ目的や健康年齢延伸目的、日々のストレスからの解放、癒し目的など、皆さまの様々なニーズにお応えするプラスαを提供します。
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